視点と構想

[ 私たちの2つのテーマ/視点 ]


1 子どもの〈教育〉と医療

  NPO法人設立(2017年1月)以来、

最初のプロジェクトとして、2017年3月から

「発達の遅れ」連続セミナー

(2019年から[実例から知る、「発達の遅れ」が気になる子どもの教え方])

を開催中です。

 

 

 

 「発達の遅れ」(「発達障害」)というハンディがあっても、

早期からの効果的な教育・学習によって

子どもに自分自身の力を身につける手がかり・基盤が生まれ、

それを踏み台としてその子なりの Quality of Life 向上につなげられる、

そうした成長の具体的な「事実と実例」を提示していきます。

 

 

 実は、教育的なアプローチによって

5年後、10年後、あるいは20年後、子どもがどのように変わったか、

家庭や学校での課題をどのように乗り越えたか。

そうした成長の記録・報告は、保護者の体験記以外、

複数の実例としてみれば、驚くほど少ないといえます。

 

   

たしかに、

「発達の遅れ」を取り上げる本や雑誌、テレビ番組で実例は紹介されます。

しかし、そのほとんどが

教育関係者や医療関係者による情緒的な解釈と

短期間関わったエピソードを披露したもののように思われます。

子どもがどうなったのか、

その後の経緯が真剣に語られることは極めて稀です。

 

不思議なことに、そうした貧しい状況ながら

接し方・教え方の理論や方法が形づくられ、

海外から輸入された情報(知識)が市民権を得ています。

 

果たして、わが子の「発達の遅れ」で心配な保護者に対し、

本当に説得力をもつでしょうか。

 

 

 幼児期・学齢期など、その時々の場所・時間で切り取った実例が

それぞれの専門家から記録・報告されるため、

あたかも具体的・長期的な実例が継続して示されているかのように

受け止められているにすぎないのではないでしょうか。

 

 数値を含めさまざまな情報を集め、

そのうえで治療法を比較検討・推測・選択するという、

医療の常識を少しでも知っている人間ならば、

強い違和感をもつはずです。

 

 

 そう考えるとき、

保護者の切実な声とともに、

具体的な複数の実例を紹介することが求められていると強く感じます。

情報(知識)ベースではなく、体験(実践)ベース。

これが連続セミナーの特徴だと考えています。

 

  

セミナー開催にあたっては、

趣旨に照らし合わせ、

24年間にわたる多くの指導実績があり、それを公表している

民間の教育機関・エルベテークの協力を得ました。

 

さまざまな実例を提示できるのはもちろんのこと、

保護者の視点と指導者の視点双方から

子どもの成長を立体的にとらえることも可能になるのではないか、

そう期待しています。

 

 

この連続セミナーでは、

  貴重な子育て体験を発表するのは「発達の遅れ」をもつ子どもの父親や母親。

そして、セミナーに参加し、直に聞いた具体的な接し方・教え方を

自分自身の子育てや家庭学習に役立てるのも、保護者です。

 

 「「発達障害」の子は、誰かに教えてもらわないとできない、

だから必要なことを教えてあげる、という話が印象的でした」

(参加者/2歳の子どもの保護者)

 

 「自然に獲得できることが自然に獲得できないのは、

練習する、教えてあげることで手助けすることが大切だと理解した」

(同/小学3年生の児童の保護者)

 

 「学習し続けることの大切さ、応じる力が大切だということを改めて感じました」

(同/中学3年生の児童の保護者) 

 

                         ——セミナー第5回のアンケートより

 

 

 

 このような保護者の、切実な生の声と感想を聞くたびに、こう感じます。

 

「『発達の遅れ』というハンディにとって最大のリスクは、

早期から適切な教育・学習を受ける機会を逸し、

『個性』『自尊感情』といった言葉だけの、

根拠があいまいな期待に頼り続けることではないだろうか」

 

 

特に、子どもの思考・意思・感情・人格形成に欠かせない言葉という存在。

その言葉の遅れに対する対策は

何をおいても取り組まなければならない、急務のものだと感じています。 

  ところが、特別支援教育の現場では

「言葉だけがコミュニケーションではありません」というアドバイスがしばしばなされます。

ほんとうにそうでしょうか?

 

発音・発語を促すことが、

読み書き計算の技術と意欲の獲得に結びつき、

その子どもの成長の手がかり・基盤をつくる、もっとも大きなきっかけとなることは、

すでに「事実と実例」が証明しています。

 

 

人間は、

言葉と文字を介して「教え-教わる関係」を構築できる、唯一の存在である。

その事実にしっかり目を向けたいものです。

 

多くの方々とともに、

このような「事実と実例」を踏まえた特別支援教育(障害児教育)の姿を

具体的な形にしていきたいと思います。

 

 

連続セミナーと並行して、

「発達の遅れ」をもつ子どもも、そうでない子どもも、

「発達の遅れ」のある子の親も、そうでない子の親も、

一緒に参加できる楽しいイベント、

子どもの自主性を伸ばすイベントを順次、開催していきます。

 

 

 いわゆる「発達障害」といった診断名に過度に振り回されず、

焦らず、諦めず、後悔せず、自らの意思でより良い子育てを手繰り寄せるために……。

同時に、新しい特別支援教育の像を築くために……。


2 子どもの教育と〈医療〉

 いま、医療の世界では多くの医療者から

「地域医療」や「在宅ケア」といったキーワードが

当たり前のように口にされるようになりました。

しかし、子どもを含めた家庭や家族という、

個の単位、暮らしの単位での視点がどれほど留意されているでしょうか。

 

 

 家庭や家族を、社会に対して閉鎖的・情緒的にとらえるのではなく、

子どもが社会へ飛び出す準備(=教育)の場として能動的にとらえ直すと、

その役割はきわめて重要であり、

地域医療や在宅ケアの深化にとっても

大きな意味をもち始めるように思われます。

 

 

 成長する子どもの存在を視野に入れれば、

多くの大人が

子どもの果たす、隠れた社会的な役割にも気づかされるにちがいありません。

 

たとえば、高齢化が進み、活力が失われがちな地域社会において、

予防医療(特に二次予防)の一翼を子どもが参加し担う仕組みを整えることによって、

さまざまな課題解決の糸口が生まれ、

本当の意味で医療が地域社会に浸透するのではないかと思われます。

  

 

 

高齢者医療、認知症ケア、在宅医療、ターミナルケアなど、

いっけん子どもとは無関係と見られているテーマもまた異なった展開を示すでしょう。

そして、大人の関わり方・援助が鍵を握るとはいえ、

がん医療や障害児医療においても

子どもの貢献を考える時が来ているように感じられます。

 

 

 医療は病院の中だけに存在するわけではありません。

医療者の手の中だけにあるわけでもありません。

地域社会の保健医療が抱える問題について、

子どもを含めた家庭や家族という視点に立ち、

実践的で建設的なプロジェクトを構想していきたいと考えています。

 

 

このテーマの第一弾として、

障害児福祉・障害者福祉に着目したいと思います。

障害者福祉サービスを手がける生活介護事業所の協力を得て、

「子どもの教育と福祉の融合」に焦点を当てたセミナーを計画中です。

ご期待ください。

 

オブジェ  茅木日出男(Hideo Kayaki)

ロゴタイプ/アイソタイプ  堀 博(Hiroshi Hori)

コピー 知覧俊郎(Toshiro Chiran)

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