[NEWS]セミナー第11回を開催しました

7月14日(土)、連続セミナー[わが子の「発達の遅れ」、その改善に取り組む保護者たち]第11回(赤い羽根共同募金重点助成事業 後援/埼玉県、埼玉県教育委員会、埼玉県社会福祉協議会、川口市、川口市教育委員会、川口市社会福祉協議会)を開催しました。


 第11回は、ロサンゼルス在住日系アメリカ人の母親(Kさん)による体験発表でした。アメリカの特別支援教育の事情に触れながら、その中で大切なことは何か、子どもはどのような力をつけて成長するのか、などについて考えるセミナーとして企画しました。

 

 Kさんと娘さん(日系4世で、現在、ミドルスクール8年生)の親子は、年長/5歳から言葉やコミュニケーションの遅れと自閉傾向を改善するために教育/学習を中心にした生活に切り替えました。スカイプを利用してエルベテークの授業をアメリカ-日本間で受けることもありましたが、現在では、ふだんはアメリカの教室(ロサンゼルス教室)で学び、夏休みには日本の教室(川口教室)で学ぶという教育/学習中心の生活を送っています。

 

 日本では専門家、保護者を含め一般的に「アメリカの特別支援教育(スペシャル・エデュケーション)は優れている」「日本より進んでいる」と認識されていますが、なぜKさんは日本の指導法を信頼して娘さんの学習を続けているのでしょうか、学習を通して娘さんの成長は具体的にどのような成果を上げているのでしょうか……そのあたりが今回の聞きどころとなりました。

 

 

 体験発表の冒頭、現在の娘さんの様子についてKさんから報告がありました。娘さんの真面目で明るく積極的な性格、そして学習習慣、生活習慣、交友関係などが紹介されていきました。

 

 「小さい頃は本当に大変だった子なんですけれども、いまはとても落ち着きまして、学校のお友達、先生方に理解していただいて、愛されました」

 

 娘さんは今夏から、日本の高校に相当するハイスクールに進学しますが、その前の6月、ミドルスクール(中学校)の卒業式を迎えました。そこで、重要な役割を占める開会宣言の「アメリカ忠誠の誓い」(Pledge of Allegiance)を卒業生代表として壇上で堂々と宣誓しました。

 

 この大役にはKさん自身も驚いたそうですが、ミドルスクールの教師全員の推薦を得た結果とのこと。また、真っ先に娘さんを指名したのは、以前、非協力的であまり関係が良くなかった先生だったというのも驚きです。彼女の通ったミドルスクールは一般の子とハンディのある子が共に通う学校ですが、そのなかで周りから評価され、信頼されている彼女の力を示す象徴的なエピソードだと感じます。

 その他、テストの成績によってランク付けされるトップランクのシルバーアワード(スペシャル・エデュケーション)を3年間連続で受賞しました。「勉強、そこは頑張りましたね」とKさんはこれまでの努力を振り返って話しました。

 

 とはいえ、幼児期の様子からすると、現在のような力をつけるとは信じられなかったにちがいありません。

 赤ちゃんの時にはなかなか寝ようとせず、ある程度のスピートが出た車の中でようやく寝るという娘さんのため、両親は真夜中に高速道路を走り続けたこともあったそうです。レストランでは泣きわめくという状態でした。

 Kさんは常に睡眠不足で、会社から疲れて帰ってくるご主人に子育ての相談をする余裕も気力もありませんでした。

 

 「あの頃は精神的に参っていて、あまり記憶がないぐらい大変でした」と、Kさん。子育ての大変さを痛感し、周りに相談しても「疳の虫の強い子なのよ」「英語と日本語両方だからこんがらがっちゃっているのよ」「お父さんとお母さんが違うふうに話しかけているからしょうがないんだよ」「もう少ししたら落ち着くわよ」と言われるばかり。

 

 やがて、幼稚園(キンダー)では先生から「ちょっと心配です。呼びかけに対応しません。みんなと一緒に話が聞けません。友達といっさい話しません」と言われ、言葉の遅れや自閉傾向を指摘されました。目線が合わず、自分の世界に閉じこもるといった様子で、Kさんにとっても「宇宙人みたいな感じ」だったそうです。

 

 その後、相談機関であるリージョナルセンターのサイコロジスト(いわゆる「心の専門家」)から「高機能自閉症」と診断されました。日本の病院でも2ヶ所ほど診察を受けましたが、「自閉症じゃなくて広汎性発達障害ですね」「自閉症です」と告げられました。

 

 母親として「診断が下り、大変だったのは自閉症だったから」と安心するいっぽうで、「なんとかしなければ」と思うようになり、自閉症に関する本を読み漁りました。当時の精神状態についてKさんは次のように話しました。

 

 「十人十色なのでしっくりいかない部分も多いんですよ。だから、『この子(娘さん)は本当に自閉症なのかなどうなのかな』と、そういう目でしか彼女を見ていなくて、彼女の行動ひとつひとつに『これは問題』『これは問題じゃない』ばっかりでした」

 

 ただチェックをしているだけの当時の状態について反省を込めてKさんは話しました。この頃は、保護者仲間やご主人との関係も気まずくなっていたといいます。

 

 ところで、アメリカでは、「自閉症」「発達障害」という診断が下りるとそれだけで自動的にセラピーなどいろいろなサービスが受けられます。Kさんもそうしたセラピーに埋もれる生活を送ることになりました。

 

 「幼稚園に行ってからセラピーを受けて、往復の時間もあるし家に帰ってきたら7時ぐらいで、急いでご飯を食べて……なんて、親子ともにヘトヘトですよね」

 

 Kさんの指摘は、「セラピーや療育に通うこと」がいつしか目的になってしまっている状況を指しています。それは皮肉にも、現在の日本の療育や放課後等デイサービスと「発達の遅れ」との関係(つまり、子どもを施設へ送り込むことが目的になっている状態)によく似ているように感じられました。

 

 いずれにしても、Kさんは専門家任せの状態や、にもかかわらず成果を実感できずにいることに疑問を感じていた頃、たまたま立ち寄った日系の書店で1冊の本(『発達の遅れが気になる子どもの教え方』)に出会いました。

 

 当時の娘さんは幼稚園で座っていられず、ストーリータイム(読み聞かせの時間)の時に先生の話が聞けないので、教室の外に出され、そこで補助員のエイドと一緒に遊び、わめきだしたらまずオモチャが与えられるという始末でした。

 

 「娘はオモチャに集中していて、先生の言っていることなんて何も聞いていないわけですよ。だから、『あまり学校に行っている意味がないんじゃないかな』と……。見ていると親として悲しくなってくる。他の子とも交流しているわけではなくて、エイドさんが見張っていてオモチャを『はいこれ』『じゃ、飽きた』『今度、これ』と渡していくだけの遊びだったので……。いちおう、アメリカではキンダーは学習する場所なんですけれども、とても学習にはつながっていなかったんですね」

 

 幼稚園のスペシャル・エデュケーションのクラスの先生からは「自閉症とはこういうものだからしょうがないから、お母さん」と言い方をされたそうです。「じゃ、小学校に入ったらどうなっちゃうのかな。ずっとしょうがないなのかな」と違和感をもっていたKさんにとって、『発達の遅れが気になる子どもの教え方』が転換点になりました。

 

 『発達の遅れが気になる子どもの教え方』を読んだあと、「子どもの学ぶ姿勢が大切です」という本の指摘から大事なことに気づかされ、大いに共感するとともに、自ら進むべき道がはっきりしました。

 

 「それまでの私は『セラピーで頑張ってコミュニケーションができるようになったら、いつか勉強できるようになるのかな』とか『娘に合うセラピーを見つけることによって娘の問題点が少しずつなくなっていけば、学ぶ余裕が出てくるのかな』という感じでした。それが『まずは学習』ということにすごくびっくりしちゃったんですね。座ってられない子ですから、学習なんて……という感じでした」

 

 そして、年長/5歳から「子ども自身に力をつける」という視点に基づく学習を生活の中心に置きました。相手の目を見て話を聞く、相手の目を見て話す、あいさつをする、お手本に従って文字の読み書きと計算を行う……などです。

 

 教育/学習とその後の成長の関係について次のようなポイントが語られました。

 

【家庭学習と学校生活の様子】

・6月半ばからの夏休み期間中の日本での学習が成果をあげ、アメリカに帰国後、小学校の先生たちが子どもの変化と成長に驚いたこと(特別支援教室から通常学級への参加、テストの成績に伴って得られた自信……)

・家庭学習の役割と学校側に指導の協力を仰ぐ大切さ(家庭学習で培った力はやがて認められるという事実……)

・ミドルスクールでの先生方からの評価(当初、接し方などを理解してもらえず信頼関係を築くのが難しかった学校の先生が高く評価するに至った経緯……)

・宿題への取り組み方など、家庭学習の具体的な進め方

 

 なかでも、学校との話し合いなどの際に、「戦闘モードでは何も得られない」という教訓を得たというKさんの話は興味深く感じられました。最近の日本ではとかく、子どもの権利だけを主張するケースが見受けられますが、IEP(個別指導計画)など、学校側と話し合う場の心構えとして「学校の協力を得る」という視点が日本でもアメリカでも非常に大事だと思われます。

 

 それに関連して「学校とケンカして良いことはひとつもありません」というエルベテーク代表・河野俊一さんの指摘は、これまでの23年間の指導経験から発せられているだけに説得力をもって参加者に伝わったにちがいありません。

 

 最後に、Kさんから、学習といっても勉強や宿題だけに目を向けるのでなく、時に子どもと一緒に買い物や料理をし、それを日記にまとめたり……などの時間をもつことが効果的というアドバイスがありました。

 

 穏やかに、そして時系列に即してわかりやすく、またアメリカと日本の特別支援教育を比較しながらの体験発表は、参考になるものばかりでした。少しでも多くの保護者にこの貴重な情報・体験を共有してもらえれば幸いです。

 

 今回、NPO法人からの要請を受けて体験発表されたKさんに改めて感謝いたします。

 

 

 なお、今回セミナーに参加された保護者は、川口市を中心に埼玉県、東京都、神奈川県、栃木県の首都圏、そして静岡県、大阪府、京都府の1都2府4県に在住の方々でした。お子さんの年齢は、下が2歳、3歳、上は高校2年生、3年生で、そのうち14名ほどが小学生という状況でした。

 

 

[テーマ] 「アメリカでは巡り会えなかった指導法に出会った」 

 

[プログラム] 体験発表(ミドルスクール8年生/14歳の母親) + 進行・解説・質疑応答(エルベテーク代表/医療法人エルベ理事・河野俊一さん)

 

[日時] 7月14日(土) 10:00〜12:15(受付開始9:45〜)

 

[会場] メディアセブン コミュニケーションスタジオ(川口駅東口「キュポ・ラ」7階 048-227-7622 http://www.mediaseven.jp/) 

 

[参加者] 31名

 

[参加費] 500円

 *より詳細な内容は近日中にホームページ上で報告します。