6月2日(土)、連続セミナー[わが子の「発達の遅れ」、その改善に取り組む保護者たち]第10回(後援/埼玉県、埼玉県教育委員会、川口市、川口市教育委会、川口市社会福祉協議会)を開催しました。
第10回は、前回(第9回)お話しいただいた保護者の松本さん(高校3年生の母親/保育士)に改めて体験発表をしてもらうことにしました。前回申し込みながら定員の関係で参加できなかった方にも、経験に基づいた貴重なお話を聞いていただけるのではないかと考え、Part2を企画しました。
Part2では、小学校から中学校まで家庭でどのように接し教えたのか(学習面ならびに生活面)、家庭学習の核心はなんだったのか、友達との関係をどのように導いたのかなど、特に保護者の関心ある部分に焦点を当て、より詳しく体験発表をしていただきました。
また、今回は、申込書に記入してもらった質問や会場からの質問に対する質疑応答の時間を長くとり、少しでも子育てに応用できる情報提供に努めました。
ところで、前回、冒頭で松本さんが次のように話されたことが印象に残っています。
「今の息子の様子はほんとうに穏やかで、年中の時の多動的で攻撃的だった部分は(学校の)どの先生が見ても『信じられない』というお話をいただくほどです。ちょっと素朴な感じで、周りに流されない。強く自己主張するわけではないんですけれども、意思をしっかり持っていて、自分でコツコツ、自分の計画したものを確実にこなしていくという感じですね」
今回も、息子さん(長男)の現在の様子について説明がありました。
「すべて自分で考えて行動する子になっています。学校の生徒会とか、クラスで何か決まらない時には『誰もやらないんだったら』ということで積極的に手を挙げて役割を自分から受けたり、そういう面も最近見られています。
学習に関しては、高校に入ってからずっと私のほうで口出すことは何もないんですけれども、自分で足らないもの必要なものを調べたり、わからないものは教室(エルベテーク)のほうに質問するような形で自分で題材を考えて、時間も自分でうまく使えるようになっています。
生活習慣に関しては、身の回りのこと、忘れ物とか、そういうのも全部自分で確認してほぼ間違いなく持っていきます。そういう几帳面さが見られます」
そのうえで、エルベテーク・河野俊一さんの進行のもと、松本さんは自分の記憶をたどるように幼児期の子育てについて話されました。
現在は明るく誠実で成績優秀な高校3年生の息子さんですが、子育ては山あり谷ありの連続でした。
年中の時には「高機能自閉症」、就学前には「広汎性発達障害」「多動性障害」と診断されたこと(周りに相談しても返ってくる言葉は、「大丈夫だよ」「学校に行くまでにどうにかなるから」だったそうです)、小学校入学にあたって特別支援学級を勧められたものの、両親は「普通学級で様子をみてほしい」と強く希望したこと(診断名から「自閉症」という言葉が消えたことが大きかったようです)、しかし、結局、授業についていけず、1学期の終わりに担任から「2学期には特別支援学級へ移るように」と言われたこと……。
当時、松本さん自身、保育士としての勤務時間を極力減らし、わが子の家庭学習に付き添っても、ドリル1ページを学習させるのさえ長い時間がかかるため、なかなか先に進まなかったそうです。息子さんは1+4が5になるという理解がわからない状態でした。また、文字の書き順を教えようとしても、書き順が覚えらない状態では学習そのものが成り立ちません。こんなことを繰り返すうちに、息子さんも嫌になってきて、泣く、わめく、すると松本さんもそれに言葉で押さえつけるという悪循環に陥りました。
やがて「どうにかしなくては」と必死な気持ちになった両親は、その夏休みにようやく効果的な接し方・教え方を探り当て、そこからが本当の子育てのスタートでした。
アドバイスにしたがって家庭学習を組み立て直しました。なによりも、子どもが取り組む姿勢に気づけるようになり、その姿を親がほめることによって子どもも素直に応じられるようになりました。両親も「責任を持ってかかわらなければ」と考えるに至ります。
当初は家庭学習として2、3時間関わり続けましたが、その積み重ねが小学校高学年ごろには目に見える学力となって現れました。
そして、息子さんは学習を重ねるにしたがって、自ら計画を立てやり遂げる習慣を身につけるまでになりました。生活面や性格面への影響が大きいと松本さんは言います。
その基盤の上に周りが驚くほどの力を発揮し、現在に至っています。
繰り返しますが、「多動的で攻撃的だった部分」を改められたのは教育/学習の力です。小学1年生の1学期、息子さんはひらがなも書けず、文章もスラスラと読めず、足し算は5より先はできなくなるといった状態でしたが、そのハンディを乗り越えたのは「子どものペースに合わせる」接し方ではなく、「どうにかしなくては」という危機感が土台となった導き方(1年生の夏休みから開始)にありました。
セミナーに参加された保護者の関心事は、やはり、家庭学習の質を長期間維持する秘訣についてでした。
申込書の「聞きたいこと」の項目には、「家庭で学習をさせる際、子どもがぐずったり嫌がったりした時には、親としてどのような対応をしましたか?」「学習の習慣が一度身についていたが、環境の変化でまた崩れてしまいました。継続して、日々の学習に取り組めたのは、やる時間帯、言葉かけ、どのように工夫されたのか教えてください」「前回、お話を伺い、長い間、家で学習を続けていることに感動しました。親としてそのモチベーションを支えているのはなんでしょうか?」といった質問がありました。
心がけたこと、それは松本さんの説明によると、「取り組ませる姿勢」です。
「それまでは学習の課題だけ。足し算ができるようにならなきゃいけない、国語が読めるようにならなきゃいけない、そういうものばっかりに目が行って、『追いつかなきゃいけない、追いつかなきゃいけない』っていう、そこに自分の中心がありました。生活的な基本というんですか、座って目を見てきちっと話をするという、自分の基本の姿勢を忘れていることに気づきました」
このように、読み書き計算やコミュニケーションなど、子ども自身の力をつける最初のステップは、子どもに「応じる姿勢」を身につけさせることにあると思われます。応じることができるようになるから、教わることができるようになり、力を伸ばすことができるという流れが生まれのではないでしょうか。
この基盤が整っていないのに、表面的な「できた」「できない」にこだわっていると、学習の効果は期待するほど上がらないでしょう。あるいは、子どもの言い分に反応したり不適切な言動の原因を探ろうとするうちに、子ども自身に社会性を含めたさまざまな力をつけるという、子育ての目的が見失われやすいと言えます。
なお、今回のセミナーでは「友だちとどのように付き合わせればいいか」も大きなテーマになりました。エルベテークの河野俊一さんからは、互いに言葉のキャッチボールができ、相手を信頼し、また相手もこちらを信頼している友だちこそが本当の友達ではないか、といった指摘がありました。友だちの数をやたらに自慢する、現在の風潮に河野さんは疑問を投げかけました。
松本さんからは、わが子の子育て体験の基づいて導き方について次のような話がありました。
「クラスでLINEができていてその中でたくさんの友達がいるという子ではないので、自分で『あっ、この子はすごく自分と気が合う、わかってくれる』というのを判断する子なので、普通の子に比べたら多分(友だちの数は)少ないと思うんですけれども、小学生の時からの子と中学生の時からの子、あとは高校生になっても、クラスが一緒ではないんですけれども『価値観が一緒』と自分で思う子のことはすごく大事にして長く付き合いをしています」
この冷静なお話がすべてを物語っているように感じられました。
なお、今回参加申し込みの保護者は、川口市を中心に埼玉県、神奈川県、千葉県、茨城県、栃木県、群馬県、長野県の7県に在住の方々でした。お子さんの年齢は、下が3歳、4歳、上は高校3年生でした。
今回は、ご夫婦そろっての参加者の保護者も複数いらっしゃいました。ありがとうございました。
[テーマ] 「大人の接し方が変われば、子どもは伸びる Part 2」
[プログラム] 体験発表(高校2年生の母親/保育士) + 進行・解説・質疑応答(エルベテーク代表/医療法人エルベ理事・河野俊一さん)
[日時] 6月2日(土) 10:00〜12:00(受付開始9:45〜)
[会場] メディアセブン コミュニケーションスタジオ(川口駅東口「キュポ・ラ」7階 048-227-7622 http://www.mediaseven.jp/)
[定員] 30名(対象=保護者)
[参加費] 500円
*詳細は、近日中にホームページ上で報告します。