私どもNPO法人 Education in Ourselves 教育を軸に子どもの成長を考えるフォーラムによる「発達の遅れ」連続セミナー「わが子の「発達の遅れ」、その改善に取り組む保護者たち」第9回(後援:埼玉県、埼玉県教育委員会、川口市、川口市教育委員会)を川口市のメディアセブンで開催しました。
【概要】
テーマ「大人の接し方が変われば、子どもは伸びる」
▶お話(体験発表) 高校2年生の母親(松本さん)
▶進行・解説と質疑応答 河野俊一さん(エルベテーク代表/医療法人エルベ理事)
▶3月10日(土) 10:00〜12:20 メディアセブン(川口市川口1-1-1)コミュニケーションスタジオ
▶参加者 33名
▶参加費 500円
「発達の遅れ」連続セミナーには毎回、埼玉県内外から多くの保護者の方が参加されています。今回参加申し込みの保護者は、川口市を中心に埼玉県、東京都、神奈川県、千葉県、栃木県の5県に在住の方々でした(お子さんの年齢は、下が3歳、上は中学3年生)。
ご夫婦での参加希望もたくさんありましたが、定員の関係で1名限定という形をとらせてもらいました。ご理解・ご協力ありがとうございました。
*今回から連続セミナーのタイトルを「わが子の「発達の遅れ」に直面した保護者とともに考える」から「わが子の「発達の遅れ」、その改善に取り組む保護者たち」へ変更しました。
【体験発表】
2018年最初となった連続セミナー第9回は、「大人の接し方が変われば、子どもは伸びる」というテーマのもと、母親(保育士)の松本さんによる体験発表を行いました。
身近に接する母親の言葉を通し、現在、高校2年生になる息子さんの幼児期から小学校~中学校~高校の学校生活、家庭生活の成長記録が発表されました。母親・父親が10年以上にわたり学習を中心に置いて子育てをしてきただけに、その手応え・自信を十分に感じさせる、説得力ある話が聞かれました。
話の主な流れは以下の通りでした。
(1)現在の子どもの様子について(性格、学習習慣、生活習慣、交友関係など)
(2)幼児期の様子について(家庭や保育園での問題、診断を受けたこと)
(3)小学校生活について(就学相談から小学校入学まで、小学1年1学期の様子と学校側からの話、「どうにかしなくては」との強い思い、姿勢、鉛筆の持ち方から文字の書き方、あいさつや返事、コミュニケーションの学習について、親子の変化、遊びを優先した時の反省と家庭学習の立て直し)
(4)中学での家庭学習の様子について
(5)高校生活の様子について(家庭学習、成績、生徒会活動、各種検定など)
(6)これまでを振り返って
現在の息子さんの様子について、松本さんは次のように紹介しました。
「今の息子の性格はほんとうに穏やかで、年中の時の多動的で攻撃的だった部分は(学校の)どの先生が見ても『信じられない』というお話をいただくほどです。ちょっと素朴な感じで、周りに流されない。強く自己主張するわけではないんですけれども、意思をしっかり持っていて、自分でコツコツ、自分の計画したものを確実にこなしていくという感じですね」
現在、公立高校に通う松本さんの息子さんですが、弟の出産の頃から、奇声を上げたり暴言を吐いたり暴力を振るったりするようになりました。年中の時に「高機能自閉症」、就学前には「広汎性発達障害」「多動性障害」と診断され、特別支援学級への入学を勧められました。
しかし、診断名から「自閉症」が消えたこともあり、両親は「普通学級で様子をみてほしい」と強く希望しました。入学後、普通学級で授業を受ける力が不足していることは明らかで、1学期の終わりに担任から「2学期には特別支援学級へ移るように」と言われたそうです。
「どうにかしなくては」と、解決策を求めた両親でした。やがてエルベテークの本がきっかけとなり、わが子に学習の基本から繰り返し学ばせました。すると、1年生の夏休み明けの2学期、担任から「夏休みになにかありましたか?」と聞かれるほどの変化が現れました。
その後、学習に取り組む姿勢・態度と基礎学力の向上とともに、松本君自ら「繰り返しやればできる」と学習の手応えを感じるまでに。
松本さんは、高校生活での学習面について次のように話しました。
「成績に関しては、一発でできるというわけではないので、本人が毎日コツコツとやることによって成績も1年生からずっと上位のほうを同じような感じで(維持しています)。科目に関しても飛びぬけてできているものがあるとかではなくて、均等的にどの科目も勉強しているので極端に点数が落ちたり順位が落ちたりということはなく、それも全部息子のほうが自分で決めて行動しているという感じです」
興味深い話ではないでしょうか。専門家やマスコミなどが「発達の遅れ」を話題にする時、とかく「異能」「とんがった力」といった特別な才能・個性を重視しがちですが、実は子どもの成長にとって大切なのはむしろ総合力ではないか、そんな指摘が込められていたように感じました。
実際、子どもの成長の過程でどのような状況・条件がやってきたとしてもそれに対応できるのは本人に総合力があるかないかだと思われます。言い換えれば、総合力とは対応力といってよい優れた力です。
事実、松本さんの息子さんは大きく成績が崩れることなく、常に上位に位置しながら高校生活を送っています。この力は社会人となった時にもきっと力を発揮するだろうと思います。
話の中で小学校時代からの学習の進め方について、「書ければいい」と「きちんと書く」の違いを対比していたのも印象的でした。誰もが認めざるをえないたしかな成長を約束するのは、特別で目新しい学習内容ではなく、むしろ当たり前のことに取り組ませ、それを親や大人がしっかり確認する、できていなければ曖昧にせずまた取り組ませる、やり遂げさせる、そんな親の姿勢・考え方が大切なのだと改めて感じました。
特別支援教育の現場を見ると、残念ながら、漫然と子どもにプリントや作業をやらせ、友達感覚で「できたね」「すごいね」と周りが声をかけてそれで終わりといった対応が少なくないように感じられます。「やり遂げさせる」「しっかり見届ける」が曖昧なやり方で本当に本人の力がつくのだろうかと疑問に感じます。
それだけに、学習の場でも家庭でも、手を抜かずに押さえるところはしっかり押さえて対応した松本さんの姿勢と努力があったからこそ、息子さんはここまで伸びたのだなと確信しました。
松本さんは、サポートをしてくれる実のお父さまの話にも触れました。
会社生活が長かっただけに、新社会人の姿を思い浮かべながら、「高学歴で会社に入社する人を相手にしていると、彼らは高学歴をもっていても、話がきちんと聞けなかったり社会性が備わっていなかったり指示されたことができなかったりする。(息子の場合)それができるということは、学習を続ける中で培ってきたものだろう。素晴らしい」という内容の話をお父さまは語ってくれたとのことです。
明るく誠実で成績優秀な息子さんですが、自分で学習の計画を立て実行する習慣が基盤にある事実がポイントです。家庭学習を生活の中心に置くことによって、松本君は周りが驚くほどの自信と力をつけています。「発達の遅れ」を乗り越えたと言ってよいでしょう。
現在、文科系の大学を志望し、オープンキャンパスに参加し必要な勉強や資格にチャレンジしているそうです。
読み書き計算などの基礎的な学習を通し、学習をはじめ生活面のさまざまなものに一人で取り組む力を養うことにつながったとの松本さんの指摘。また、子どもの自分本位の言動に振り回されず、周りからのアドバイスを参考にしながらやるべきことをやるように促したという松本さんの指摘。そこに、親としての自信(同時に、子どもの自信)がうかがえました。
セミナー後のアンケートでも、「共感したこと」として「子どもの教育には親の姿勢が大切」「あきらめない」「子どもとの接し方」「基本的なこと、当たり前のことを自然とできるようにさせたこと」、また「自分の子育てに役立てたいこと」として「生活習慣の見直し」「生活や学習の自立」「人の話をしっかり聞く習慣、自分のものは自分で片付ける習慣などを身につけさせたい」を挙げる方が多かったようです。
【解説】
松本さんの息子さんを小学1年生から高校2年生の現在まで約11年間指導し、タイムリーなアドバイスをしている河野さんからは、学習面だけでなく生活面を含めいろいろなことに子ども自身一人で取りかかること、そしてそれをやり遂げること、その積極性と我慢強さという習慣づくりの大切さが強調されました。
そして、その習慣を身につけさせるにはまず家庭で親が子どもにしっかり対応してはじめて、その力が学校生活で発揮されるようになるといった見通しについても説明がありました。
【質疑応答】
参加された保護者からの質問(事前にもらっていた質問を含む)に松本さんと河野さんが答え、関連する解説が加えられました。
取り上げたのは、以下の質問などでした。
「親から言われなくても家庭学習に取り組むようになったのはいつ頃からですか? そのきっかけは何だったのでしょうか?」
「子育てをしていく中で一番大事にしてきたことは何ですか? 保育園や学校では他の保護者の方に対してお子様の診断のことや特性など伝えたりしたのでしょうか?」
「兄弟はいらっしゃいますか? もしいらっしゃったら、『発達の遅れ』のない兄弟に『発達の遅れ』をどう伝えればいいのでしょうか? 兄弟の仲が良くなるようにどんな努力をされましたか?」
【アンケート】(全部で26通。その一部を原文のまま紹介します)
●保護者の体験発表についての感想-1「どの部分に共感されましたか?」の回答
・就学前の保護者の声
「小さい頃の親としての不安はやはりどこのお父さんお母さんも同じように抱えられている点は共感しました」(6歳の保護者)
・小学生の保護者の声
「当たり前のこと、やらなければいけないことをきちんと出来るようになる事をてっていされていたということ」(小学2年生の保護者)
「学習面での成長は勿論のこと、私は生活面での成長には驚きました」(小学4年生の保護者)
「発達の遅れがあっても、あきらめずに、導いたことにすばらしいと思いました」(小学6年生の保護者)
・中学生の保護者の声
「子供の教育には親の姿勢が大切」(中学2年生の保護者)
●保護者の体験発表についての感想-2「『自分の子育てに役立ててみよう』と思ったことはなんでしょうか?」の回答
・就学前の保護者の声
「今日だけの言い訳が習慣をくずしてしまうのだなと思いました」(5歳の保護者)
・小学生の保護者の声
「楽な方向や言い訳に流されず、やるべきことを優先する姿勢」(小学3年生の保護者)
「1対1の関係をまずはしっかり家庭ではぐくむ」(小学3年生の保護者)
「自分のものは自分で片付ける、靴をきちっとそろえる、人の話をしっかり聞くetc しっかり身につけさせたいと思いました」(小学6年生の保護者)
・中学生の保護者の声
「こちらがぜったい手をぬかない」(中学1年生の保護者)
「親自身の生活も見直し、子供のしつけも生活の基本的なことから見直したい」(中学2年生の保護者)
●保護者の体験発表についての感想-3「今回の体験発表で強く感じたことをお書きください」の回答
・就学前の保護者の声
「幼少期からのコツコツが成長すると実るのだなと思いました」(6歳の保護者)
「習慣と根気強い継続が大事であると感じました」(6歳の保護者)
・小学生の保護者の声
「学習を通して、努力する、応じる姿勢を身につけていくことが大切だと感じました」(小学1年生の保護者)
「自分も心を強く持ち教育していくことが子どもの将来を左右してしまう、と思いました」(小学2年生の保護者)
・中学生の保護者の声
「やらなければいけないことを優先する等一つ一つ身につけていって自律できるようにしていきたいと思います」(中学3年生の保護者)
●河野さんの解説についての感想
「優しく補足しながら話してくださったのでわかりやすかったです。経験からの事例を話してもらえて勉強になりました」(小学1年生の保護者)
「テーマごとに進行し、松本さんの体験話に当時の様子や補足をしながら興味深くきくことができました」(小学3年生の保護者)
「進行がスムーズで、補足して欲しい所は指摘して下さり、より理解が深まりました」(小学3年生の保護者)
「具体例が多くわかりやすかった」(小学3年生の保護者)
「今後子育てで役に立つお話や事例が多く聞くことができて良かったです」(小学3年生の保護者)
「下手ななぐさめは不要と考えていたので、非常に良かったです」(小学4年生の保護者)
なお、今回、連続セミナーの開催自体についても答えてもらいました。
●連続セミナー開催についての感想「今回のセミナーのように、親や大人の接し方/指導によって親子が大きく成長する長期の実例について、どのように感じますか?」の回答
「参考になりますし、他にも沢山の事例を知りたいです」(5歳の保護者)
「実際に幼い頃から毎日接してきて育ててきた人の話は初めて聞いたので、同じ親の立場として勉強になったのと自分が生きていくうえで前向きになれます。もっとこういう機会に参加させていただきたいと思いました」(小学1年生の保護者)
「今後もこの様な長期の実例を紹介いただけると励みになるので嬉しいです」(小学2年生の保護者)
「時に子どもの様子に不安になったりしがちですが、事例を伺うと希望が持てます」(小学2年生の保護者)
「将来の参考になり、有難い」(小学3年生の保護者)
「そこには、信実があるので、とても参考になります」(小学3年生の保護者)
「今回初めて参加しました。とても参考になりました」(中学2年生の保護者)
「とても勉強させていただきました。今後も続けてセミナーを開催してほしいです」(中学3年生の保護者)
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今回のセミナーについて、『広報かわぐち』12月号で案内してもらいました。
今後とも、保護者による長期的・具体的な体験発表を聞く機会を通して、多くの方が「教育・学習を通してどの子どもも変わりうる、『発達の遅れ』があろうがなかろうが接し方・教え方の基本は共通だ」という認識がもてるよう、当NPO法人としても連続セミナーの開催に力を入れていきたいと考えています。
なお、次回第10回は5月ごろを予定しています。
(報告/2018年3月26日 知覧)
(撮影 知覧)