[REPORT]報告-セミナー第8回(2017年12月4日)

 私どもNPO法人 Education in Ourselves 教育を軸に子どもの成長を考えるフォーラムによる連続セミナー「わが子の「発達の遅れ」に直面した保護者とともに考える」第8回(後援:埼玉県、埼玉県教育委員会、川口市、川口市教育委員会)を川口市のメディアセブンで開催しました。


【概要】

 

・テーマ「夫婦でともに取り組む、娘の子育て」

・お話(体験発表) 5歳/年中の父親(Tさん)

・進行・解説と質疑応答 河野俊一さん(エルベテーク代表/医療法人エルベ理事)

・12月4日(月) 10:40〜12:20 メディアセブン(川口市川口1-1-1)コミュニケーションスタジオ

・参加者 30名(うち保護者20名)

・参加費 500円

 

 第8回は2017年最後となるセミナーでした。いずれの回も埼玉県内外から保護者の方が多数出席されていますが、今回も川口市を中心に埼玉県、神奈川県、茨城県、群馬県、長野県の5県に住む保護者の参加がありました(子どもの年齢は、幼児に限ると、2歳2名、3歳3名、4歳2名、5歳2名)。

 

【体験発表】

 

 連続セミナー第8回は、「夫婦で取り組む、娘の子育て」というテーマのもと、父親(弁護士)による体験発表を行いました。今年最後のセミナーとなりましたが、セミナーとしては初めて幼児の子育て真っ最中の保護者からお話を聞きました。

 

 体験発表をした父親は、娘さん(5歳/年中)のこれから迎える小学校生活に対して不安を抱きつつも、夫婦で子育ての方向性を共有し、そのうえで役割分担しながら支え合っている子育ての手応えと見通しについて率直に話しました。

 

 話の主な流れは以下の通りでした。

 

 (1)現在の娘さんの様子、学習の内容・レベル、幼稚園生活について

 

 (2)子どもの成長で気になったこと、専門医の受診などについて

 

 (3)親として子育ての方向性を探る中で、学習を重視する指導法に出会った経緯について

 

 (4)家庭で取り組む接し方・教え方のポイントについて

 

 (5)子育てをめぐる夫婦の協力について

 

 (6)就学を控えた現在の課題と対応、親の視点について

 

 Tさんの娘さんは次女です。4歳上のお姉ちゃん(小学3年生)に比べ、両親は「むしろ育てやすい」と思っていたそうです。そのいっぽうで、娘さんが1歳を過ぎた頃から言葉の遅れや視線が合わないことなどの状態が気になっていました。

 

 発達で心配だった点についてセミナーでは次のように話されました。

 

 「学習を始める前は一番気づいたのは、赤ちゃんの頃から目を合わさないことがすごく違和感がありました。いろいろ話しかけても、通じている風情がないなとは思っていました。ただ夜泣きをするタイプでもなくて、ニコニコ笑っていて、上の子に比べるとかえって育てやすいという印象はありました。絵本とか読んであげようとしてもまったく興味をもたないことはありました。最初の頃はそういう好みなのかなと思っていました」

 

 2歳の時に、自宅近くのかかりつけ医を受診し、紹介された専門医に相談したのですが、聴覚に異常なしということがわかった程度でした。また、療育センターで発達検査を受けた結果、言葉の遅れはわかったそうです。結局、両親は専門家の説明に満足することはありませんでした。

 

 こうして、父親は父親で、母親は母親で、子育ての方針を立てようといろいろな情報を集めたそうです。やがて、偶然ながら、それぞれが「障害のあるなしにかかわらず、子どもが身につけなければならない力は同じ」という考え方、具体的な指導法に注目していることを知り、驚きました。

 

 Tさんは、本屋で『誤解だらけの「発達障害」』(新潮新書)を見つけ、すぐに購入し、読み進めるうちに「どこか見たことがあるな」と思って家を探したとのことです。すると、すぐに見つかったのですが、それは以前、奥様がお姉ちゃんの子育てで困った時に読んでいたものでした。

 

 「本を読んで関心をもったのは、『目を見て話すのが大事だ、基本』という話と、『だめなことはダメとはっきり言う』ということですね。あとは、実例が豊富にあったので、指導された経験が豊富なんだろうなと思いまして、そういうのもひとつの参考にはしたつもりです。僕は素人ですから『こんな子、どうやって指導するんだろうね』っていう話とかもあったので、でも指導されている実績があるわけだから、いろいろなことが生じても対応していただけるのかなと思ったことは事実です」

 

 そして、2014年11月から川口で週1回、学習を開始しました。当初、意味不明の独り言はあったものの、言葉が出ていないことが心配だったそうです。しかし、言葉の遅れだけに目が向いている両親にとって、むしろ、我慢する、周りの指示に応じる、目を見るという、本人の力をつけることを最優先させましょうとの指導方針は意外なアドバイスに思えました。

 

 弁護士という仕事柄、Tさんは、子どもの成長経過を記録にとるのを習慣にしています。当時、2回目の学習を見学した際の記録には「集中力が途切れない様子にびっくりした」と記したそうです。その驚きについて「学習そのものではないかもしれないけれど、そこの基盤となる話だと思うので、大事なことだし、安心だなと思った」とTさんは記録しています。

 

 エルベテークで学習を続けるとともに、アドバイスにしたがって家庭での接し方・教え方を見直し、現在に至ります。いま、娘さんは日常会話はなんとかできるようになり、読み書きや数などを繰り返し学習中です。

 

 「学習は、最初、家で何を教えるかわからないので、(エルベテークの)宿題で出されたことをやるということでした。いまでもそうですけど、滑舌がはっきりしない時があるので、そのつど言い直したりして言わせるようにしたと思います」

 

 これまでのセミナーでも強調されてきたことですが、子育てのポイントは夫婦で教え方・接し方の考え方を共有することだと思われます。

 娘さんはこれから1年あまりで小学校入学を迎えます。これまで築いてきた学習の習慣が成長の確かな基盤になりつつあるようです。娘さんのこれからの成長が楽しみです。

 

【進行・解説】

 

 最近、「イクメン」といった言葉に示されているように父親の子育て参加が一つのキーワードになっています。しかし、多くの場合、誤解されているのではないでしょうか。

 父親がいかに子育てに取り組むかという問題について、河野さんはある親子のエピソードを紹介しました。そのエピソードを聞くと、夫婦が子育てに参加することの核心は、同じ考え方・接し方のもとで夫婦が互いにフォローし合う関係を築くことではないかと思われました。そのためには、父親と母親を納得させるに十分な、事実と実例に基づく優れた指導方針が鍵を握ると改めて感じました。

 

【質疑応答】

 

 参加された保護者からの質問(事前にもらっていた質問を含む)にエルベテーク代表の河野俊一さんとTさんが答え、関連する解説が加えられました。特に、夫婦が同じ考え方・接し方を共有し、子どもに振り回されないようにすることが子育てのポイントであるとの指摘が強調されました。

 

 なお、取り上げられたのは、以下の質問でした。

 

「自分の気持ちのコントロールがなかなかできず、そのつど注意していますが、いっこうに良くならず、焦っています」

「足し算や引き算の学習をやっていても、数の意味がわかっていないように感じる。いろいろ試しているが、どうしたらいいか?」

「小学校入学へ向けて必要なことはなんでしょうか?」

「子どもの成長に関して悩んだり落ち込んだりするが、その際にモチベーションを高めたり、乗り越えたりする方法を教えてほしい」

 

【アンケート】(全部で14通。その一部を原文のまま紹介します)

 

保護者の体験発表についての感想-1 「「発達の遅れ」に気づき相談した前後の不安や戸惑いについて」の回答

 

・就学前の保護者の声

 

「私の息子も赤ちゃんの頃目を合わせずらく気になっていました。早い時期に気付かれアクションを起こしたことで年中の今、少しずつ力がついていってるのだと思いました」(2歳の保護者)

「共感することがあり、同じ様に不安があったのだと思いました」(3歳の保護者)

 

・中学生の保護者の声

 

「医師に相談した時に、疑問を感じられたという点で、自分も同じ経験をしました」(中学3年生の保護者)

 

保護者の体験発表についての感想-2 「その後の親としての対応や子育ての考え方について」の回答

 

・就学前の保護者の声

 

「すばやくて適切な対応をされていたと思います。私は決断まで時間がひつようでしたので、少し後悔しています」(2歳の保護者)

「学習のやり方や園への対応など、とても参考になりました」(3歳の保護者)

 

・中学生の保護者の声

 

「無理なく自然体で子育てをしていらっしゃると思いました」(中学3年生の保護者)

 

保護者の体験発表についての感想-3 「夫婦の役割分担と協力体制について」の回答

 

・就学前の保護者の声

 

「奥様の話を聞いて夫婦で情報を共有していること、忙しい合間をぬって子育てに参加していてすばらしいと思いました」(2歳の保護者)

「私は夫から教えられることが多く、でもお2人で協力されているのがよいですね」(2歳の保護者)

 

・小学生の保護者の声

 

「奥様のお話を聞いていらっしゃる…お忙しい中、努力されていると思います(話しを聞いてもらえるだけで心が軽くなるので)」(小学2年生の保護者)

 

・中学生の保護者の声

 

「子育ては母親だけでは成り立たないと思いました」(中学3年生の保護者)

 

保護者の体験発表についての感想-4 「Tさんの現在の学習(成長)について」の回答

 

・就学前の保護者の声

 

「会話ができるようになり、年相応の学習ができていて成長を感じました」(2歳の保護者)

 

・小学生の保護者の声

 

「年中さんで、たしざんや短文読解に取り組んでいるのですね! すごく親子で努力されたのだと思います。私も、もっと頑張ろうと思いました」(小学2年生の保護者)

 

・中学生の保護者の声

 

「繰り返し学習させることが大切なのだと思いました」(中学3年生の保護者)

 

●河野さんの解説についての感想

 

「子供の状態が今どのような状態か把握し、どう改善していくか考え優先順位をつけるとおっしゃっていたことが印象に残り、実せんしていきたいと思います」(2歳の保護者)

「分かりやすく、実例を話して下さるので、よかったです」(3歳の保護者)

「「本人の成長が、周囲の協力を得られる……」ということは本当にその通りだと思います。改めて日々の努力(学習)をおこたってはならないと身が引きしまる思いでした」(小学1年生の保護者)

「親が、「教えてやるんだ!」という気持ちを強く持って接することの大切さを改めて心に留めなければと思います」(小学2年生の保護者)

 

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 体験発表にあたって、Tさんは会場にいる奥様と目で確認しながら、自身の子育ての様子について述べられました。ほほえましい光景でした。「応じる姿勢」や「我慢する力」に何度も言及していたのが印象的でした。

 

 また、会場の後ろの席には娘さんも着席していました。時々、姿勢が崩れることもありましたが、「静かに」といった指示で立て直している姿が垣間見られました。指導の良し悪しの結果を具体的に見る思いがしました。

 

 改めて、Tさんの貴重な発表に感謝します。

 

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 なお、今回のセミナーについて、『広報かわぐち』12月号で案内してもらいました。

 今後とも、保護者による体験発表を聞く機会を通して、多くの方が「教育・学習を通してどの子どもも変わりうる、『発達の遅れ』があろうがなかろうが接し方・教え方の基本は共通だ」という認識がもてるよう、当NPO法人としても連続セミナーの開催に力を入れていきたいと考えています。

 

 なお、次回の第9回は高校2年生の母親による体験発表を予定しています。

 

■第9回 2018年3月10日(土)10:30〜12:30メディアセブン(川口市川口1-1-1キュポ・ラ7階)

(報告/2017年12月26日 知覧)


(撮影 知覧)