[REPORT]報告-セミナー第3回(2017年5月15日)

連続セミナー[わが子の「発達の遅れ」に直面した保護者とともに考える]第3回(後援:埼玉県、埼玉県教育委員会、川口市、川口市教育委員会)を川口市のメディアセブンで開催しました。


【概要】

 

・テーマ「言葉の遅れ、こだわり、偏食などの克服と、家庭学習のあり方」・お話(体験発表) 小学 6 年生の母親

・まとめと質疑応答 河野さん(エルベテーク代表/医療法人エルベ理事)

・5 月15 日(月) 10:40~12:30 メディアセブン(川口市川口 1-1-1)コミュニケーションスタジオ

・参加者 32 名

・参加費 500 円(資料代)

 

【体験発表】

 

今春、小学 6 年生になる息子をもつ母親 (元小学校教諭)から貴重な体験発表がありました。

 

(1)言葉がまったく消え、多動や偏食などが気になった息子さんが 3 歳の時、児童相談所で「自閉症」と診断された頃の母親の気持ちと行動について

 

 2 歳すぎには数個の言葉を発していたものの、その後、言葉が消えたこと、そして言葉の教室に通うようになったが、そこで 息子さんは泣くばかりだったことなど、幼児期のさまざまな問題行動が母親から具体的に語られました。

 

 その他、勝手に動き回り、静止すると泣いたり、初めての場所に行くと泣いたりといった状態が続き、母親はずいぶん苦労したようです。「一歩外へ出ると、体力の限界と苦労の連続でした」と話されました。

 

(2)言語指導をはじめとした適切な指導法によって、言葉が出始め、多動やこだわり、偏食などの問題行動が減るなど、明らかに変わった子どもの様子について

 

 児童相談所で「自閉症」と診断されましたが、相談に行くまでの 2 カ月の間、母親は インターネットなどで調べるうちに、息子さんの発達の遅れを確信しました。その頃、母親の希望する言語指導にめぐり合い、話すのを待つのではなく、話させるという考え方に納得しました。

 

 以来、学習を通して課題を改善する接し方・教え方を続けています。 当初は泣いてばかりで学習に取りかかれなかった息子さんが、やがてあいさつの言葉をきちんと言えるようになりました。「......た」→「......ました」→「ありがとうございました」という変化を見せたそうです。

 

(3)学習面にとどまらず、生活面においても現れた子どもの具体的な成長と、「これで教えられる!」と感じた親の自信・見通しについて

 

 学習面だけでなく、生活面でも大きな変化が現れ、偏食などもなくなりました。どうしても大泣きがやまなかった歯医者さんの玄関口でも自分自身をコントロールできる ようになりました。こうした変化は、継続的な学習を通して息子さんに「受け入れる姿勢」が整ってきたからだと思われます。

 

 母親は、「一つひとつ目標が達成すると、『これで教えられる!』と見通しがつき始めました」と手応えを話されました。

 

(4)母親が共感・実践した効果的な指導について(通常の療育や言葉の教室では見られなかった視点・ノウハウ)

 

 子どもが受けた指導について母親は、「最初話せなくても一緒に言う、言わせることを継続することが大事」と思うとともに、泣いて嫌がることに対して、泣くからやめるのではなく、「大きくなってからわからない、できないほうがずっとかわいそう」いう説明に大いに納得したとのことです。

 

 家庭でも母親は、汚い字は書き直させる、声を出してはいけない場所でしゃべったらやり直させるなど、よくなかったことをやり直させる接し方・教え方を根気よく続けています。就学を控え、なるべく外出させる工夫も取り入れたとのことです。

 

(5)コミュニケーションと読み書きの練習に取り組む現在の息子さんの様子と、家庭学習のポイントについて

 

 幼稚園の頃は、リズムよく宿題や教材を解かせることを主眼に置き、問題や答えがわ からない時間が長くなって嫌にならないように気をつけたとのことです。小学校入学後は、息子さんが一人でできてほしいことの手本を自ら示し、教えました。帽子やランドセルの置く場所などから始めたそうですが、次第に翌日の教科書を自分で揃えられるようになり、今ではわからない時以外は一人で学習しているそうです。

 

 学校で自主学習が 始まった5年生からは、家庭でも繰り返し学習させることに力を入れています。現在、演習、最小公倍数、最大公約数、少数のあるわり算、分数のたし算ひき算、仮分数、帯分数に直す、漢字などの学習を繰り返し行なっています。

 

(6)発達の遅れをもつ子どもを育てる保護者へのメッセージ(親として/元小学校教師 として)

 

 母親は「自分のお子さんが、『きっとできる、必ずできる』と信じてあげれば、その思いや願いは必ず伝わると思っています。どんな小さなことからでもいいと思います。 一緒にがんばってみてください」と話されました。

 

【まとめ・解説】

 

 河野さんからは、母親の体験発表をまとめながら、子どもの成長に及ぼす学習・教育の大切さが改めて指摘されました。特に、子ども自身の力をレベルアップさせていく学習・教育の力が強調されました。

 そのうえで、子どものことをよく知っている親の役割が大きいという事実が語られました。

 

「教育とはその子の現状をよく把握したうえで、課題がなんなのか、どこをどう改善していかなくてはいけないのか、それが大きいと思います」

 

 子ども本位にさせる風潮に振り回されずに、いかに親として責任をもってやるべきことをやるのか、その視点があってはじめていろいろな情報を探したり、専門家のアドバイスを受けたり、適切な接し方・教え方を見つけたりする行動につながるはず、との指摘でした。

 

 なお、言葉の読み書きの力を伸ばしていく接し方・教え方を家庭でも取り入れてみては......、という具体的なアドバイスもありました。

 

【質疑応答】

 

 参加者から「困っていること、聞きたいこと」として挙げられた質問項目のうち、次のようないくつかの質問について説明がありました。「偏食が激しい児童に対しての保育所・学校での対応等」「感覚過敏による偏食、言葉の遅れ」などです。

 

 「学校の担任の先生には、こちらから学校での子供の様子について定期的に聞いた方が よいのでしょうか?」

「授業参観で先生の話をまったく聞いていない。ボーっとしていて、筆箱を触ったりしているだけ。これでいいのでしょうか?」

 

【アンケート】(全 22 通のうちの一部)

 

●保護者の体験発表についての参加者の感想

 

・就学前の保護者の声

 

「今まで困っていた事とか、同じ事が多く、共感できる事、私もこうしたいと思う事が沢山ありました。今は、うちの子も小学生という事でこう大きくなってほしいと思いました」(3 歳の保護者)

「細かい事から全体の事が手に取る様に感じました。大変、勉強になり、心が安心し、心強く思いました」(4 歳の保護者)

「実際に、小学生になっているお子さんの事例が聴けて良かった。親の頑張りが子供の成長に大切なのだと感じた」(4 歳の保護者)

「親が子供のために環境づくりきっかけづくりをしてあげることが大切なんだなあと思いました」(5 歳の保護者)

 

・小学生の保護者の声

 

「改めて子供に対する親の姿勢(やり遂げさせる、できると信じる)の大切さを実感しました」(小 1 の保護者) 「小学校入学前に親が根気強くやるべき事(やってほしくない事)へ対応したので、普通級に通え、6 年生になっても進歩していっているということがすばらしい。見習いたいと思いました」(小 2 の保護者)

「いろいろなことに挑戦されていて、私も日々の過ごし方にもっともっとやれることがあると気がつきました」(小 2 の保護者)

「大変貴重なお話を伺えてとても参考になりました。お仕事柄もあるのかもしれませんが、子供の気持ちをより理解しておられて、お子さんへの支援のし方がとても参考になりました。定型発達の子にもとても活用できると思いました(小 5 の兄がいるので)」(小 2 の保護者)

「お母様が実践された事を具体的にお話しして下さったので自分の体験と比較する事が出来ました」(小 3 の保護者)

「私の息子と多動の様子等、同じでおどろきました。現在、支援級に楽しく通い、交流もよく行っています。子供のがんばる力を、心によりそい、育てていきたいと思います」 (小 3 の保護者)

「ご家庭での取り組みにとても感銘を受けました。もっともっと本気で親が必死に向かい合ってゆこうと決意致しました」(小 4 の保護者)

 「とてもわかりやすく、共感することが多かった。お母さんの子に対する熱意に関心、見習おうと思いました」(小 4 の保護者)

「『こだわり』についてどう対応したら良いか、学校での心配ごと、改めて今一度考え ました」(小 6 の保護者)

 

・中学生の保護者の声

 

「家族みんなで協力したお話しはとても『わかる、わかる』と思いました。我が子の幼児期の頃を思い出し、大変だったこともありましたが、いま成長した姿を見ると、エル ベテークの教えを守って続けてきてよかったとあらためて感じました」(中 1 の保護者)

「息子との共通する部分も多く、改めて参考になります。とてもまとまった内容で、分かりやすかったです。同じ母親として応援します!!」(中 2 の保護者)

「やはり母親が早く行動を起こして子供に何がよいかを導いてあげるのが一番と感じました。子供と向き合うのに一番多く接するのは母親なのでその行動力には感銘を受けました。子供にはあり余る力を引き出す事が上手なんだと思いました」(中 2 の保護者)

 

・高校生の保護者の声

 

「受け入れる、応じる姿勢を身に着けさせるために、あきらめずに時間をかけて教えることが大切なんだということをあらためて感じました」(高 1 の保護者)

「子供を信じて頑張るということばが印象に残りました」(高 2 の保護者)

 

●河野俊一さんのまとめ・質疑応答についての感想

 

「その子に合った学習で大きく成長でき、それが悩み解決の一番の近道だと思いました。 しっかりとした教育をさせたいと思いました」(3 歳の保護者)

「発達の遅れがある子供でも、教育が必要な事がわかった」(4 歳の保護者)

「『親が頑張る』この言葉を忘れずに頑張ります」(小 2 の保護者)

「教育の大切さを実感しました。家庭生活の中で親がどれだけがんばれるかによって子供の成長につながることをもう一度考えさせられました」(中 1 の保護者)

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  今回のセミナー第 3 回では、具体的な体験談をもとに子どもの成長にとって教育・学習の果たす役割の大きさ、その中で親・家族の占める位置の大きさについて保護者とともに考えました。

 

 いま、世の中では、「無理をさせてはいけない」「子どもにストレスがたまる」「子どもの好きなこと・得意なことをさせよう」といった専門家のアドバイスに影響され、子どもの教育・学習自体が過小評価されているように感じられます。

 

 しかし、いくつもの長期的・具体的な「事実と実績」を見る限り、どのような「発達の遅れ」であっても幼児期からの適切な教育が必ず改善に向かうという事実、むしろ適切な教育・学習を受けなかった子どものその後に不安定な要素が認められやすいという事実が示されています。

 

 当 NPO 法人が行なった第 3 回でも、母親による体験発表によってはっきりと証明されたように思われます。今後も引き続き、保護者の切実な声に応える「事実と実績」を伝達できる場にしていきたいと考えています。

 

(報告/2017年5月23日 知覧)


(撮影 知覧)